「広告はちゃんと回しているのに、なぜか売れない」。ベトナムに進出した日系企業から、よく聞く悩みです。原因の多くは、ベトナムの購買が「広告」よりも「口コミ=シーディング」で動く点にあります。日本で効きやすい広告中心の進め方が、そのままでは通じにくいのです。
筆者はホーチミンでマーケティングを支援していますが、自分自身も毎日TikTokやFacebookグループでレビューを読み、それで物を買う一人の消費者です。本記事では、ベトナムで売りたい日系企業の担当者に向けて、次の点を実体験とデータの両面から整理します。

ベトナムの消費者は、「広告がうまい商品」を探しているのではありません。「自分が欲しい効果があり、その効果を他人が認めている商品」を探しています。これは化粧品・健康食品のような領域で特に顕著です。
筆者自身、欲しい効果を強調する広告だけでは絶対に買いません。むしろ、効果を誇張したり、競合と直接比較したり、市場に多様な使用者の声がまだ無い商品は、広告を回しても売れないのが普通です。「1週間で頭痛が消える」式の言い切りは、信用されるどころか警戒されます。
逆に言えば、第三者の声がない商品は「存在を疑われる」ということです。後で詳しく触れますが、レビューが1つも見つからない商品は、ベトナム人にとって効果も品質も、ときには出所すら怪しい対象になります。広告予算の前に、まず「人の声」をどう作るかを考える必要があります。

シーディング(seeding)とは、KOL・KOC・一般ユーザーの声を市場に「植える」施策です。やらせ(ステマ)と混同されがちですが、本質は違います。本物のレビューは長所と不満の両方を書きますが、仕込みは賛辞だけで固まります。
信頼度と役割は、3者でまったく違います。
| 種別 | 役割 | 信頼のされ方 |
| KOL(著名人・大型) | 認知・リーチを稼ぐ | 高額で起用されるため「8割は良いことを言う」と割り引かれる |
| KOC(小規模インフルエンサー) | 購買の後押し | 「自分と同じ一般消費者」として信頼されやすい |
| 一般ユーザー・専門家 | 最終的な信頼の決め手 | 数が多い/専門性があると、ほぼ絶対的に信じられる |
筆者の場合、商品をKOLや著名人で「知る」ことはあっても、最後に信じるのは数の多い一般ユーザーの声か、その分野の専門家です。例えば化粧品を選ぶとき、メイクを習い始めて必要なアイシャドウを探した際、TikTokでレビューを見ると、最近のメイクアップアーティストの約9割が特定の中国国産ブランド(Cheeryep、Julydollなど)を使っていました。日々プロが使っているという事実が、ほぼ絶対的な信頼になり、実際に買いました。広告では一度も動かなかったのに、です。
KOLは「リーチ」、KOC・専門家・一般ユーザーは「信頼」。この役割分担を取り違えると、認知は取れても購買に繋がりません。

口コミ文化は、ECが普及する前からベトナムに根付いています。家族・友人・同僚に「良い物を、適正価格で」と相談する習慣が先にあり、そこにEC時代のKOL/KOCという「職業化した口コミ」が乗って、体系的に拡散するようになりました。
日本人が驚くのは、その「相談先」の具体性です。ベトナム人は購買相談に実在のFacebookグループを使い分けます。例えば料理・調理家電なら Yêu Bếp(料理・台所好きの会)。このグループは投稿の約8割が販売リンクを貼らないため、かえって「これは本物の体験談だ」と信頼されます。ほかにも美容・ヘアケアの Hội Yêu Tóc Việt Và Làm Đẹp(ベトナムの髪を愛し美容する会)、飲食店なら Saigon Dining Guide(サイゴン外食ガイド/管理者が業界の専門家で、ブッキング=有料案件を受けない)といった具合です。
ここに日本との決定的な差があります。レビューが1つも見つからない商品は、ベトナム人に「誰も使っていない=怪しい」と判断されます。 逆に、価格が高くても安くても、効果について言及が多い商品は売れやすい。Facebookグループでの口コミは、企業にとって「見込み顧客が集まる相談所」そのものです。

少し高い買い物をするとき、ベトナム人がどう動くか。筆者自身の直近の流れ(アンチエイジングクリームの例)を、そのまま再現します。
ポイントは、検索エンジンではなくTikTok・Threadsから始まること、そして購入の前に必ず「Ask(他者に確認する)」段階が挟まること。広告で認知させても、この「Ask」でレビューや口コミに負ければ買われません。化粧品は新しい物を試す傾向が強く、日用品(歯磨き・シャンプー)は前回と同じブランドを素早く買い直す、といった品目差もあります。

実際にKOCへレビューを依頼する相場感は、フォロワー数で次のように分かれます(1投稿の参考値)。
| ティア | フォロワー | 費用の桁感 |
| ナノ | 1,000〜1万 | 100万〜500万VND(約6,200〜30,900円)(商品提供のみも多い) |
| マイクロ | 1万〜5万 | 500万〜2,000万VND(約3.1万〜12.3万円) |
| ミッド | 5万〜50万 | 2,000万〜1億VND(約12.3万〜61.7万円) |
| マクロ | 50万〜100万 | 1億〜3億VND(約61.7万〜185万円) |
| メガ・著名人 | 100万超 | 3億〜10億VND(約185万〜617万円) |
依頼形態は3つ。商品提供(バーター=ギフティング)/現金(ブッキング)/成果報酬(アフィリエイト)です。ナノ層は現金ではなく商品提供だけで動くことも多く、これは日本と大きく違う実務感覚です。費用を抑えたいなら、ナノKOCへのギフティングから始めるのが現実的です。
「うまいシーディング」の形も具体的です。例えば一時期バイラルした「チーズコイン焼き(bánh đồng xu phô mai)」は、TikTokのフード系レビュー動画に、味・価格・買える場所についてのコメントを多数植えてFOMOを作り、視聴者自身の「試した体験」のシェアを促していました。商品を直接売り込むのではなく、体験の連鎖を作るのがコツです。

シーディングは諸刃の剣です。「やりすぎ・嘘っぽい」と見抜かれた瞬間、信頼は逆回転します。ベトナム人が「これは仕込みだ」と気づくサインは明確で、判で押したように同じ言い回し、短時間に複数のKOLが一斉に同じ商品を投稿、9割が賞賛で購入リンク付き、といったパターンです。
2025年には、これが実際の摘発に発展しました。野菜キャンディ「Kẹo Kera」事件です。著名インフルエンサーのQuang Linh Vlogs・Hằng Du Mục、そしてミス・グランド・インターナショナルのThùy Tiênが、「キャンディ1粒で野菜1皿分」と宣伝しましたが、検査の結果、繊維は1箱30粒で0.51gしか含まれず、虚偽と判断されました。Quang Linh Vlogsらは逮捕・起訴され、虚偽広告で1.4億VND(約86万円)の罰金、製品は偽造品として扱われました(出典: Tuổi Trẻ / VnExpress International)。販売は13万箱を超えていました。
そして2026年1月、改正広告法(Luật số 75/2025/QH15)が施行されます。KOL/KOCは「広告」の明示が義務化され、実際に使った商品しか宣伝できず、虚偽があればブランドと連帯責任を負います(出典: VnEconomy)。「自然なふりの仕込み」はもう通用しません。これは日系企業にとってむしろ追い風です。透明性を前提にした誠実なシーディングは、信頼を重視するこの市場で長く効くからです。

最後に、ベトナム人から見て「効く/外す」シーディングの違いをお伝えします。
外すのは、商品の話だけを延々とする投稿です。使ってもいないのにスペックを並べるレビューは、すぐに見抜かれます。
効くのは、日常の使用シーンに商品を溶け込ませること。化粧品なら「10日間使ってみた」「すっぴんで効果を見せる」といった、時間をかけた検証コンテンツが信頼されます(あるインフルエンサーは美容液を7日間テストしてInstagramに上げていました)。レビューを「本音っぽく」見せるコツも、商品の話に終始せず、自分の生活・経験の物語に乗せることです。
日系企業への指針をまとめます。
VWCでは、ベトナムのシーディング・KOC起用・口コミ設計を、現地ネットワークを使って戦略から実行まで支援しています。「広告は回しているのに売れない」とお悩みなら、本記事を書いた筆者がお受けします。VWCに問い合わせる。
Q. シーディングはステマ(やらせ)と同じで、規制されないのですか?
本物のシーディングは、実際に使った人の正直な声(長所も不満も)を広げる施策で、賛辞だけを仕込むやらせとは異なります。2026年1月施行の改正広告法で、KOL/KOCは「広告」の明示と実使用が義務化され、偽装レビューには連帯責任が課されます。透明性を前提に設計する必要があります。
Q. KOCに依頼する費用の相場はどのくらいですか?
1投稿あたり、ナノ(1,000〜1万フォロワー)で100万〜500万VND(約6,200〜30,900円)、マイクロ(1万〜5万)で500万〜2,000万VND(約3.1万〜12.3万円)程度が目安です。ナノ層は現金ではなく商品提供(ギフティング)だけで動くことも多く、費用を抑えた起点に向きます(出典: Revu)。
Q. ベトナム人は購買相談にどこを使っていますか?
実在のFacebookグループを品目別に使い分けます。料理・調理家電なら Yêu Bếp(料理・台所好きの会)、美容・ヘアケアなら Hội Yêu Tóc Việt Và Làm Đẹp(ベトナムの髪を愛し美容する会)、飲食店なら Saigon Dining Guide(サイゴン外食ガイド)などです。販売リンクを貼らない投稿ほど信頼されます。
Q. 日系企業のシーディングで、やってはいけないことは?
商品スペックを並べるだけの「使っていないレビュー」は即座に見抜かれます。日常の使用シーンに溶け込ませ、時間をかけた検証(10日間使用・すっぴん比較など)で見せてください。2026年以降は広告明示と実使用が法的義務です。
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