「ベトナムでも広告を出したい。まずはFacebookとGoogleから」。日本から進出された企業のご担当者から、よくこうご相談をいただきます。ただ、ベトナムの広告は日本と勝手が大きく異なります。チャネルの構成も、費用感も、規制も、そして「広告がどう受け取られるか」も違うため、その違いを知らないまま出稿すると、成果につながりにくいのが実情です。
筆者はホーチミンで日系企業のマーケティングを支援していますが、自分自身も毎日スマホで大量の広告に接する一人のユーザーです。本記事では、ベトナムで広告を始める・見直す企業の担当者に向けて、次の点を実体験と最新データの両面から整理します。
※費用・法規制は2026年6月時点の情報です。相場は業種・時期で大きく動くため、出稿前に最新の見積もりと法令をご確認ください。

まず、どこに広告が流れているのか。筆者自身が1日に接触する広告の体感比率は、おおよそ Facebook 35%・TikTok 30%・YouTube 15%・OOH(屋外)10%・Zalo 5%・KOL 5% です(KOLはFB・TikTok両方に混ざって出てきます)。
| チャネル | 役割 | 効く層 |
| リーチ+運用型広告の主軸 | 25〜55歳の全年齢 | |
| TikTok | 商品の発見(TikTok ShopはすでにEC2番手) | 16〜30歳 |
| Google/YouTube | リスティング+動画。 | 検索意図のある層 |
| OOH(屋外) | Bitexco・Landmark81・メトロ1号線・空港。 | 都市部の不特定多数 |
| Zalo | OAのブロードキャスト・記事・バナー中心 | 既存顧客との連絡線 |
| KOL/KOC | 信頼で購買を後押し | ジャンル・地域ごとのフォロワー |
ここで、日本企業が最も誤解しやすい点を先に潰しておきます。「Zaloは7,000万人以上が使うから広告も効くはず」は要注意です。 ZaloのMAUは確かに巨大(VNG発表で約7,760万人)で、Zaloにも日記(Nhật ký)/フィード面はあり、見る人は一定数います。ただ利用の中心はメッセージ・通話・銀行のOTP受信といった連絡用途で、FacebookやTikTokほど「娯楽フィードを眺める」使い方は強くありません。
そのためZalo広告はOA(公式アカウント)の配信・記事・バナーが主軸で、フィード面の広告エンゲージメントはFB・TikTokより弱い傾向です。「ユーザー数が大きいチャネル」と「フィード広告が効くチャネル」は分けて考えてください。ここを混同し、Zaloに「LINE感覚」で大きな予算を入れると、期待外れになりがちです。
Web広告の主軸はあくまでFacebookとGoogle/TikTok。Zaloは「広告枠」ではなく「顧客との連絡・CRMの基盤」と位置づけるのが正解です。

ベトナムでは、広告への態度を決める要因が、おおむね 娯楽性 > 情報性 > 信頼性 > 非妨害性 の順だと言われます。筆者の実感ともほぼ一致します。
「うざい」と感じる広告には共通点があります。操作の主導権を奪い、内容が粗く、頻度が高いものです。筆者が反射的に閉じるのは、スキップできないYouTubeのpre-roll(特に違法ゲーム・賭博アプリの15〜30秒もの。音割れ・繰り返しがひどい)、深夜にいきなり音が出るFacebookライブのセール配信、本文を覆う報道サイトのバナーや自動再生ポップアップ、TikTokの「ビフォーアフター芝居」が露骨なdropshipping広告です。
逆に、最後まで見て、自分から共有したくなる広告もあります。日系企業に学んでほしい2つの例を挙げます。
1つ目は Mirinda「Chuyện cũ bỏ qua(古いことは水に流そう)」(テト企画、Suntory PepsiCo)。ベトナムの年末に廃品を売る「bán ve chai」の習慣になぞらえ、家族や近所のわだかまりを「感情の廃品」として手放そう、と呼びかけました。楽曲は全国的なミーム(広告ミーム)になり、MVは1億回超の再生を記録。テトの定番キャンペーンとして毎年続く成功例です(出典: Brands Vietnam)。学びは明快で、インサイトは大きくなくていい、ただ「本当にベトナム的」であればいい。「廃品売り」は、ホーチミンのオフィスに座っているだけの外国人CMOには絶対に思いつけない切り口です。
2つ目は BOSS Cà Phê × Grab「Điều ước sau tay lái(ハンドルの先の願い)」(2024年6月、Suntory)。缶コーヒーの男性労働者層に入るために、商品を見せるTVCではなく、Grabドライバーの願い(家の修繕、子の勉強机、誕生日会)を叶える企画を支援しました。広告の言葉は一切ないのに、視聴者は本当に泣き、本当にシェアしました(出典: Brands Vietnam)。
ドライバー・工員・配達員といった現場の労働者層は、日系企業が「低所得層」と見て軽視しがちですが、彼らこそ日用品を最も買い、ブランドを最も語る人たちです。
「つい見た」広告の公式は、現地の文化インサイト × ベトナム人の本物の声 × 自分から見ている感覚(押し付けられない)。先ほどの優先順位(娯楽>情報>信頼>非妨害)の通りです。

ベトナムの購買は、KOL/KOC(インフルエンサー)に強く動かされます。筆者自身、料理系TikTokerの「ông Anh thích nấu ăn(料理好きのお兄さん)」(約300万フォロワー)が本当に料理して、焦げや失敗まで映す動画を見て、ノンフライヤーをTikTok Shopのカートから5分で買いました。広告くさくないから信じられたのです。
ここで重要なのが、KOL(トップ層)よりKOC(フォロワー1万〜10万)の方が、しばしばROIが高いこと。視聴者が「自分と同じ」と感じるからです。地方やニッチ(ママ層・オフィスワーカー・特定大学の学生)のナノKOC(1万〜5万)は、メガKOL1人を起用するより効くことがよくあります。なお最近は、ナノ層は現金ではなく商品提供(バーター)で動くことも多く、これは日本と大きく違う実務感覚です。
そして2026年から、ここが変わります。改正広告法(Luật số 75/2025/QH15、2025年6月16日可決・2026年1月1日施行)により、KOL/KOCは「広告/#Ad」の明示が義務化され、実際に使った商品しか宣伝できず、商品に虚偽があればブランドと連帯責任を負います(出典: VnEconomy)。管理も事前許可から事後監督へ移行します。「自然なふりのステマ」の時代が終わり、正規KOLの単価は上がる見込みです。日系企業はむしろこの変化を追い風にできます。透明性を前提にした起用は、信頼を重視するベトナム市場で効くからです。

費用は業種・時期で激しく動くので、正確な単価ではなく「桁感」として捉えてください。以下は公開レートカード等をもとにした参考レンジで、実際の運用単価とは差が出ます(円換算は2026年6月25日のレート 1円≈162VND で計算。実額は編集日のレート〔Google検索「1円 vnd」〕でご確認ください)。
| チャネル | 費用の桁感(参考) |
| Facebook Ads CPC | EC約3,000〜8,000VND(約19〜49円)/金融・保険2万〜10万VND(約123〜617円) |
| Google検索 CPC | 平均5万〜8万VND(約309〜494円)/競合の激しい業種(法律・不動産・金融)15万〜30万VND(約926〜1,852円) |
| TikTok Ads | キャンペーン最低予算 約120万VND〜(約7,400円〜) |
| KOL/KOC(1投稿) | ナノ20万〜100万VND(約1,200〜6,200円)/マイクロ100万〜1,000万VND(約6,200〜62,000円)/メガ5,000万〜5億VND(約31万〜309万円) |
出典: MicCreative(広告費目安) / AZ Media(業種別Facebook広告費)
注意点が2つあります。1つは、Google CPCを「1つの数字」で語らないこと。 業種でレンジが大きく違うので、自社業種で見積もる必要があります。もう1つは、テト・ブラックフライデー等の繁忙期はCPM/CPCが20〜30%上がること。年間の出稿カレンダーは、この値上がりを織り込んで組んでください。

ベトナム人が「これは外国企業の広告だな、ここに馴染んでいないな」と感じるサインは3つあります。
1つ目は、スローガンやコピーを翻訳しただけで、transcreation(作り直し)をしていないこと。日本語の敬語構造をそのままベトナム語にすると、よそよそしく硬い。ベトナム人は短く、リズムと韻があり、少しユーモアのあるコピーを好みます(Baeminの「Ngon là phải đặt liền tay(美味しいものは、すぐその手で注文)」のような)。日本の広告は真面目すぎ、商品情報が多すぎ、視聴者への「ウインク」が足りないことが多いのです。広告のベトナム語は、翻訳ではなく現地コピーライターによる作り直しが前提だと考えてください。
2つ目は、現金文化とローカルな購買行動を軽視すること。ベトナムでは今も6〜7割の取引が現金かQR銀行送金(VietQR・MoMo・ZaloPay)です。カード・Apple Payだけを見せる広告は刺さりません。Uberが2018年に東南アジア事業をGrabへ売却して撤退した背景にも、Grabが現金決済とGrabBike(バイク配車)を早く取り入れた点があります。「移動はクルマ」という海外の前提が、バイク社会のベトナムでは外れたのです。
3つ目は、海外のモデル・舞台をそのまま持ち込むこと。パリ風の部屋で金髪のモデルが使う化粧品広告を見て、ベトナム人は「きれいだけど、自分ではない」と思います。逆にBiti’s Hunter「Đi để trở về(帰るために旅立つ)」はテトの帰省インサイトを突いて完売しました。
日系企業に学んでほしいのはBaeminです。韓国企業ながら、ベトナム人コピーライターを使い、ベトナムのミームを使い、屋外広告を日常のベトナム語で打ちました。最終的に2023年に撤退はしましたが、マーケティングのローカライズは業界の手本と見られています。日本語スローガンをベトナム語に訳すのではなく、ここを学ぶべきです。

最後に、出稿前に筆者がいつも整理することをお伝えします。
予算が限られるなら、まずFacebookかTikTokのどちらか1つに絞り、現地の声で作ったクリエイティブで小さく試すのが現実的です。チャネルを広げるのはその後で十分です。
VWCでは、ベトナムの広告をチャネル設計・クリエイティブ・KOL起用・効果測定まで一気通貫で支援しています。「どのチャネルにいくら配分すべきか」「コピーは現地でどう作るか」でお悩みなら、本記事を書いた筆者がお受けします。VWCに問い合わせる。
Q. ベトナム進出時、大手広告代理店に頼むべきですか?
有名大手広告代理店もベトナムに拠点を持ちますが、主に大型予算の大企業向けです。中小規模で「現地に馴染むクリエイティブを機動的に回したい」場合は、現地の運用に強いパートナーや、ベトナム人クリエイターを束ねられる体制の方が費用対効果が合うことが多いです。予算規模と、ローカライズをどこまで任せたいかで選んでください。
Q. 2026年の新広告法で、何が変わりますか?
改正広告法(Luật số 75/2025/QH15、2026年1月1日施行)でKOL/KOCが法的枠組みに入りました。広告の明示義務、実際に使った商品のみ宣伝可、虚偽があればブランドとの連帯責任、が柱です。KOL起用時は契約にこれらを明記してください。
Q. Zaloに広告を出せば、巨大なユーザー数にリーチできますか?
ユーザー数は巨大ですが、Zaloは連絡用途が中心で、フィード面の広告エンゲージメントはFB・TikTokより弱い傾向です。フィード広告枠としてよりも、OA(公式アカウント)での顧客連絡・CRM基盤として使うのが効果的です。
Q. 広告のベトナム語コピーは、日本語からの翻訳でいいですか?
直訳は「外国企業っぽさ」が出て刺さりません。ベトナム語は短く・リズムがあり・少しユーモアのある表現が好まれます。翻訳ではなく、現地コピーライターによる作り直し(transcreation)を前提にしてください。
VWCへのお問い合わせ・相談はこちらから!
Web施策に関するお仕事依頼・ご相談が可能です。
ベトナムでのデジタルマーケティング支援は、VWCまでお任せください。
お問合せ内容を確認した後、担当者よりご連絡させていただきます。