ハイランズコーヒー(Highlands Coffee)はなぜベトナム全土を制覇できたか|約1,000店に広げたマーケティング戦略(2026年版)

ベトナムに進出した日系の飲食・小売企業から、「現地でここまで愛されるブランドは、いったい何をしているのか」という質問をよく受けます。その筆頭に挙がるのがHighlands Coffee(ハイランズコーヒー)です。街の一等地に必ずあり、朝も昼も人で埋まっている。けれど「なぜ強いのか」を言葉にできる人は多くありません。

理由は、Highlands Coffeeの強さが一つの派手な施策ではなく、立地・価格・商品・会員施策の積み重ねでできているからです。分解しないと真似のしようがありません。

この記事では、ホーチミンで日系企業のマーケティングを支援し、日常的にHighlands Coffeeを利用している筆者が、3つの観点から整理します。約1,000店まで広げた出店戦略、スターバックスと競合チュングエンの間で取った独自のポジショニング、そして日系企業が持ち帰れる示唆です。数値は、特記のない限り2026年6月時点の情報に基づきます。

Highlands Coffeeの基本ファクト|創業者・歴史・店舗数・売上

Highlands Coffeeは1999年、ベトナム系アメリカ人(Việt kiều)の創業者David Thái(デイビッド・タイ)氏が焙煎ブランドとして立ち上げ、2002年にハノイで1号店を開きました。現在の運営会社はSuperFoods Group。フィリピンの外食大手Jollibee Foods Corporation(JFC)が同社の株式60%を保有しています。(※2026年9月、JFCはSuperFoods Groupの持分11%を売却する契約を発表しました。取引完了後の持分比率は49%となる予定です。)

注目すべきは店舗数の伸び方です。JFCが出資した2012年時点ではわずか56店でした。それが2025年末には約985店(同年だけで134店を新規出店)、2026年初頭には約1,000店規模に到達しています(ベトナム紙Tuổi Trẻ、Forbes報道/2026年3月時点)。出店数ではベトナム国内のカフェチェーンで最大です。

指標 数値(2026年時点) 出典
創業 1999年(焙煎ブランド)、2002年に1号店 Tuổi Trẻ
創業者 David Thái(ベトナム系アメリカ人) Tuổi Trẻ
運営・資本 SuperFoods Group(Jollibee/JFCが60%出資) Forbes(2026/3)
店舗数 約1,000店(2012年は56店) Tuổi Trẻ(2026/3)
直近業績 四半期利益 約41百万米ドル、売上は前年同期比+16% Tuổi Trẻ(2026/3)
今後 2027年第1四半期にベトナムでのIPOを計画 Forbes(2026/3)

14年で店舗を約18倍にし、四半期利益が過去最高水準、そしてIPOを視野に入れている。この事実だけで、Highlands Coffeeが「たまたま流行った店」ではないことがわかります。ここから先は、その伸びを支えた仕組みを一つずつ見ていきます。

ポジショニング|「手の届くプレミアム」でスタバの取れない層を取った

 

Highlands Coffeeを理解する鍵は、価格帯とターゲットです。主力商品はおおむね30,000〜75,000ドン。学生からオフィスワーカー、18〜45歳の「毎日どこかで一杯飲む」層が中心顧客です。

これは競合との比較で見るとはっきりします。

ブランド 主な客層 価格帯 立ち位置
Highlands Coffee 学生・会社員・外回り(18〜45歳) 中価格(約30,000〜75,000ドン) ベトナム産の「毎日の一杯」。利便性と大衆性
Trung Nguyên Legend ビジネス層・伝統的な濃い味を好む層 中〜高価格 コーヒー文化と「エネルギー」の哲学。豆の品質訴求
The Coffee House Gen Z・フリーランス・長居する層 中〜準高価格 「つながる空間」。店舗体験と多様なメニュー
Starbucks 富裕層寄り・都市の若者・外国人 高価格(75,000ドン超が中心) 国際ブランドの「第三の場所」。ライフスタイル販売

スターバックスが「高級な体験」を売り、大衆層まで降りてこなかったのに対し、Highlands Coffee は「ちょっと良いけれど毎日買える」帯を丸ごと押さえました。筆者の実感でも、Highlands Coffee は「一番おいしい」から選ばれているわけではありません。「十分おいしくて、十分安くて、十分近い」。この3つが毎日の選択で効いています。ベトナム人ユーザーの間でよく交わされる評価が、まさにそれを言い当てています。「一番ではないけれど、外さない」というものです。

マーケティングの視点で言い換えると、Highlands Coffee は「最高評価」ではなく「購入頻度」で勝つブランドです。単価を上げるより、来店回数を増やす設計になっている。ここが後述の会員施策とつながります。

出店戦略|「きれいな物件」ではなく「人が流れる場所」を取る

Highlands Coffee の店舗を思い浮かべると、たいてい交差点の角か、モールの中か、オフィスビルの1階にあります。これは偶然ではありません。Highlands Coffee は「見栄えの良い物件」ではなく「人の通行量が多い場所(high traffic)」を優先して面を取っています。

立地タイプ 例 狙い
交差点・二面接道・大通り沿い Nguyễn Huệ、Lê Duẩn、Hàm Nghi など ブランドの視認性を最大化。徒歩客とバイク客の両方を拾う
オフィスビル(グレードA/B)1階 Bitexco、各種オフィスタワー 朝のコーヒー・短時間の打合せ・作業需要
ショッピングモール Vincom、AEON、Lotte など 週末の買い物客・家族連れ
空港・駅・観光地 Tân Sơn Nhất、Nội Bài、中心観光地 移動客・急ぎのテイクアウト需要
高級住宅街・大型マンション Vinhomes、Phú Mỹ Hưng など 中流層の「家の近くで会う・持ち帰る」需要

同時に、直営とフランチャイズ(nhượng quyền)を併用して出店スピードを上げてきました。一等地でブランドの「面」を先に取り、視認性でランドマーク化する。これが「どこにでもHighlands Coffee がある」という体感につながっています。日本のカフェ出店が「良い物件が出たら検討する」受け身になりがちなのに対し、Highlands Coffee は「客の一日の動線」から逆算して場所を選んでいる、というのが筆者の見立てです。

商品・店舗体験|ベトナムの味を核に、長居できる空間で回数を稼ぐ

看板メニューは伝統的なベトナムコーヒーです。Phin Sữa Đá(フィン式練乳コーヒー)、Bạc Xỉu(甘めのミルクコーヒー)、PhinDi各種、そしてTrà Sen Vàng(黄蓮茶)やFreeze系。価格はフィンコーヒーで29,000〜45,000ドン、Freeze系で55,000ドン前後です。エスプレッソ系(ラテ・カプチーノ)も揃えますが、ベトナム人ユーザーの評価では「Highlands Coffee の強みはあくまでフィンのベトナムコーヒー」で、西洋式エスプレッソはスペシャルティ専門店に一歩譲る、というのが率直なところです。

店舗体験は「快適さ」より「便利さ」に寄せています。エアコン、Wi-Fi、大きめのテーブル、多くの店舗に電源があります。実際の使われ方は、朝と昼のテイクアウト、同僚や取引先との短い打合せ、勉強・仕事、友人との待ち合わせ。この4つが軸です。ピーク時(朝7時半から9時、昼12時から13時半、そして週末)は中心部の店舗がかなり混み、静かに集中したい人には向きません。それでも「席の時間制限がなく、追加注文を急かされない」点が、長時間利用のしやすさとして支持されています。

ここでのマーケティング的な要点は、Highlands Coffee が「最高の一杯」を目指していないことです。味・空間・価格のどれも突出させず、「安定して外さない」水準に全店を揃えた。チェーン運営では、新商品の独創性より、どの店でも同じ体験が返ってくる標準化のほうが効きます。Highlands Coffee はそれを徹底しています。

ブランド・デジタル施策|会員アプリ「HighlandsĐI」への移行

2025年12月19日、Highlands Coffee は新しい会員アプリ「HighlandsĐI」をローンチし、従来のHighlands Rewardsを置き換えました。ポイント(Drips)の付与、事前注文、プリペイド決済、会員ランク、友人紹介といった機能を持ち、Facebook・Zalo OA・アプリを横断して会員基盤づくりへ舵を切っています。

具体的な施策としては、次のようなものが動いています。

  • テト施策「Đón Tết Thăng Hạng」(テト2026、上位ランクBlackの特典体験を前面に出したキャンペーン)では、会員に上位ランクBlackの60日間体験を付与し、Drips2倍やアプリ注文特典で年始の来店と利用を促進しました。
  • 決済パートナー連携として、MoMo、VPBank、VIBなどと組み、1つ買うと1つ無料やアップサイズ無料などの特典を継続的に展開しています。
  • エンタメ連動として、人気番組「Anh Trai Say Hi」のコンサートチケット抽選をアプリ入金と紐づけ、Gen Zのアプリ導入を後押ししています。

筆者が体験した一例が、施策の狙いをよく表しています。よく行くBitexco店の近くにいた平日の朝、Highlands Coffee のアカウントから「月曜、7〜10時、Bitexco店でアイスのブラックコーヒーが1つ買うと1つ無料」という通知が届きました。行く店・行く時間に合った内容だったので、実際に足を運びました。位置情報と購買履歴に基づくこのパーソナライズは、Facebookの一斉配信では出せない精度です。Highlands Coffee は「商品の宣伝」から「会員の生活に入り込む仕組み」へ、明確に移っています。

ベトナム人にとってのHighlands Coffee |なぜ選ばれ、どこに不満があるか

ベトナム人にとってHighlands Coffee が何者かを、評価されている点と課題の両方から整理します。

Highlands Coffeeが支持される理由は、大きく4つです。第一に、店舗数の多さによる利便性です。 約1,000店舗を展開し、オフィス街やショッピングモール、空港、大通りなど、さまざまな場所で利用できます。待ち合わせにもテイクアウトにも便利な立地が強みです。第二に、手頃な価格設定です。 主要ドリンクは39,000〜65,000ドンと、スターバックスよりも比較的安価でありながら、エアコンやWi-Fi、快適な座席を備えた空間を提供しています。第三に、ベトナム人の嗜好に合った商品展開です。 Phin Sữa Đá、Bạc Xỉu、PhinDiなど、ロブスタ種を中心とした濃厚なコーヒーが、ベトナム人の慣れ親しんだ味覚に合っています。第四に、品質の安定性です。 店舗による味やサービスのばらつきが少なく、どの店舗でも一定の品質を期待できます。「一番ではないけれど、外さない」という評価は、こうした安定感に支えられています。

一方で課題もはっきりしています。価格が上がってきて「本当の大衆層」には届きにくい、大都市に偏っている、プラスチック容器など環境配慮が弱い、といった声です。国産ブランドとしての誇り(1999年ベトナム生まれ)が支持の土台にありながら、「もう気軽な国民的ブランドとは言い切れない」という揺れもあります。ここは今後の弱点になり得ます。

日系企業への示唆|Highlands Coffee から持ち帰るべき6点

最後に、ベトナム進出の日系飲食・小売企業がHighlands Coffee から学べる点を、筆者の現場感覚でまとめます。

学び Highlands Coffee がやっていること 日系企業への示唆
「完璧」より「便利」 客の一日の動線(オフィス・モール・空港・住宅街)に必ずいる フラッグシップ1店の見栄えより、客の生活動線に近い立地を優先する
ポジショニングを絞る 高級を狙わず「ベトナムの毎日の一杯」に集中 誰に売るかを明確にし、全方位に good であろうとしない
手の届く価格設計 39,000〜65,000ドンで週に何度も買える 客単価を上げるより購入頻度を上げるほうがベトナムでは効きやすい
商品のローカライズ フィンコーヒー・黄蓮茶などベトナムの味が主役 日本のメニューをそのまま持ち込まない。現地の味覚・習慣に商品を寄せる
運営の標準化 どの店でも同じ品質・体験が返る チェーン展開では新商品の独創性と同じくらい「ぶれない安定」が重要
ロイヤルティへの投資 HighlandsĐIでポイント・データ・来店頻度を設計 会員施策は割引配布ではなく、来店頻度向上と顧客理解のために使う

Highlands Coffee の本質は、「一番になろうとしなかったブランドが、外さなさの積み重ねでベトナム全土を取った」という一点に尽きます。派手な差別化よりも、立地・価格・味・標準化・会員という当たり前の変数を、ベトナム市場に合わせて一つずつ最適化した結果です。日系企業がベトナムでブランドを育てるときも、まず問うべきは「どこで尖るか」より「どの変数を現地に合わせて外さないか」だと、筆者は考えています。

よくある質問(FAQ)

Q. Highlands Coffeeの創業者と運営会社は?

1999年にベトナム系アメリカ人David Thái氏が焙煎ブランドとして創業し、2002年に1号店を開きました。現在の運営はSuperFoods Groupで、フィリピンのJollibee(JFC)が同社の60%を保有しています。

Q. Highlands Coffeeの店舗数はどれくらい?

2012年の56店から伸び、2025年末で約985店、2026年初頭には約1,000店規模に達しています(2026年6月時点)。出店数ではベトナム国内のカフェチェーンで最大です。

Q. Highlands Coffeeとスターバックスやチュングエンはどこがどう違う?

Starbucksは高級・国際ブランド、Trung Nguyênは伝統とコーヒー哲学、The Coffee Houseは空間とGen Z。Highlands Coffee はその中間で「手の届くプレミアム、すなわちベトナムの毎日の一杯」を取り、大衆寄りの高頻度利用で勝っています。

Q. なぜHighlands Coffee はベトナムで人気なのか?

利便性(どこにでもある)、手頃な価格、ベトナムの味(フィンコーヒー)、そしてどの店でもぶれない安定性の4つが理由です。「一番おいしい」ではなく「外さない」ことで日常の選択に入り込んでいます。

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Nguyen Thi Thao Ngoc

ゴック グエン。ホーチミン市経済大学(UEH)にて国際ビジネスを専攻。大学卒業後、ウェスタンシドニー大学にてMBA取得。Shopee事業開発幹部、Lotte E-commerceマーチャンダイジングエグゼクティブを経て、LAZADAにてブランドマネジメント・データ分析・プロジェクト管理など5年間従事。ベトナム国内大手ECプラットフォーム3社での業務経験を持つ。