ホーチミンやハノイの街を歩くと、青と白の看板のGS25が目に見えて増えています。2018年の1号店から8年足らずで約500店。ベトナムで店舗展開やフランチャイズを考える日系企業から、「GS25の成功をどう見ればいいか」という質問をよく受けます。
先に結論を言います。GS25の成功は「拡大スピードと話題化」の成功であって、「最も愛されるコンビニ」になった成功ではありません。日常の信頼で選ばれているのは今もCircle Kです。この2つを区別しないままGS25を成功事例として真似ると、日系企業は高くつく勘違いをします。
この記事では、ホーチミンで暮らしコンビニを日常的に使う筆者が、公開データと消費者としての実感の両面から、GS25の急成長の仕組みと、その戦略の死角を分析します。数値は特記なき限り2026年7月時点のものです。

まず事実を押さえます。GS25は韓国GS Retailとベトナム財閥Son Kim Groupの合弁「GS25 Việt Nam」が運営し、2018年初にホーチミンで1号店を開きました(Đầu Tư Việt Nam)。2024年5月に300号店、2025年3月にハノイへ北部初進出し、わずか9ヶ月でハノイ50店に到達。2025年内に全国500店、長期では2028年までに2,000店超という計画を掲げています。
ただし、この急拡大には裏面があります。運営会社の2024年の売上は約1,700億ドンに伸びた一方で100億ドン超の損失を出し、進出以来まだ一度も通年黒字化していません。拡大を続けながら赤字が積み上がる構図は現地メディアでも報じられており、「先に面を取り、収益は後から」という投資フェーズの真っ只中にあります。
| 項目 | 内容 |
| 進出 | 2018年初・ホーチミン(GS Retail×Son Kim Groupの合弁) |
| 店舗数 | 2024/5に300店、2025年内500店目標、ハノイは進出9ヶ月で50店 |
| 長期計画 | 2028年までに2,000店超 |
| 収益 | 2024年売上約1,700億ドン・損失100億ドン超(黒字化未達) |
※2026年7月時点の公開報道に基づく

ベトナムの外資系コンビニは、Circle K、GS25、Ministop、FamilyMart、7-Elevenの争いです。売上シェアではCircle Kが約48%で圧倒的な首位、GS25・Ministop・FamilyMartが10%台で続きます。
ここで、データを読むうえで大事な注意があります。売上シェアと消費者の支持は別の指標です。GS25のシェアには「新店を急速に増やしている」「単価が高い」という要素が乗っており、1店あたりの支持の強さを意味しません。
消費者としての筆者の実感では、日常の選ばれ方の序列はこうです。第一にCircle K。店舗数が最も多く、おでんや鍋などの温かい軽食がおいしく、価格も手頃で、「見かけたら入る」迷いのない選択肢です。第二にMinistop。食事の質はCircle Kと同等以上ですが、店舗が中心部に偏っていて出会う頻度で負けます。第三にFamilyMart。おでんの味は4チェーンで一番だと感じますが、店舗数が少ない。そして第四がGS25です。同等の商品はどこよりも高く、筆者がGS25に行くのは月1〜2回、「キンパやトッポッキが食べたい」と目的があるときだけです。Circle Kには週2〜3回行きます。
つまりGS25は、大衆の日常には食い込めていません。それでも急成長している。その理由が次の差別化です。

GS25の差別化は、突き詰めると1点です。韓国文化をそのまま体験できる場所であること。
キンパ、トッポッキ、ブルダック麺、韓国式チキン。1品2万〜5万ドンの韓国ストリートフードは、Circle KにもFamilyMartにもありません(各社の温かい軽食は日本式・ベトナム式です)。PB「Youus」は韓国のパッケージデザインをまとった飲料や菓子で、「本物の韓国の商品らしさ」が選ばれる理由になっています。
そして店舗体験への投資です。2階建て392平米の大型店、大学近くの約400平米・座席20席の旗艦店。「買う場所」ではなく「過ごす目的地」を作る設計で、K-POPやK-dramaが好きな若者を確実に掴んでいます。
ただし、ここに死角があります。座席と大型店への投資は運営コストに跳ね返り、それがそのまま「同じ商品がCircle Kより高い」価格差になっています。体験への投資は無料の強みではなく、客に価格転嫁される交換条件です。Hallyu(韓流)に関心のない層、35歳以上の層には、GS25をあえて選ぶ理由がほぼありません。勝ち筋は太い幹ではなく、意図的に絞ったニッチなのです。

GS25はベトナム料理の取り込みも進めています。xôi(おこわ)、bánh mì、phở trộnをメニューに加え、ハノイでは店舗ごとにコンセプトを変える実験もしています(ベトナム伝統様式の店、ミニ図書館コンセプトの店など)。
消費者の目から見た評価は、こうです。ベトナム料理の追加は「守り」としては正しいが、選ぶ理由にはなりません。xôiやbánh mìは路上の店の方が安くておいしいからです。韓国目当てで来た客が同行者と入りやすくなる程度の効果です。店舗別コンセプトはGen Zには刺さっていますが、投資がかさむ手法で、価格の弱点をさらに深くします。
対照的に、Circle KやMinistopは標準化とコスト最小化で「安く・速く・どこにでも」を徹底し、大衆の信頼を取りました。現状で広く支持されているのはこちらの戦略です。

GS25を語るときによく引かれるのが「第三の居場所(third place)」現象です。大型店の2階席が昼に学生のグループ課題で満席になり、ハノイ開業時には開店前から若者の行列ができました。
この現象は実在します。筆者も見ています。ただし、実像は正確に捉えるべきです。これは大学近くの旗艦店に集まる、K-culture好きの学生とGen Zという特定の層の行動であって、大多数のベトナム人のコンビニの使い方ではありません。Circle KやFamilyMartにも座って食べ、充電し、長居する客は普通にいます。違いは「韓国という新しさ」がSNSで拡散されやすいかどうか、つまり広報の差であって、消費行動の本質的な差ではない部分が大きいのです。
なお2026年半ばには、ハノイの店舗で衛生問題が報じられ、一時休業と全店点検に至った事例もありました(Tuổi Trẻ)。急拡大の運営品質が問われた局面で、話題化で伸びるブランドは逆風も同じ速さで広がることを示しています。

以上を踏まえ、ベトナムで店舗展開を考える日系企業への示唆をまとめます。最も重要なのは、この市場には性質の異なる2つの勝ち方があると理解することです。
| 戦略 | 代表 | 中身 | 向く企業 |
| ニッチ差別化×話題化 | GS25 | 文化的な強み(Hallyu)に一点集中し、体験と拡大速度で特定層を掴む。高コスト・赤字先行 | 強い文化的ブランドと資本体力がある企業 |
| 大衆信頼×効率 | Circle K | 標準化・低価格・圧倒的な店舗網で「日常の選択肢」になる | 長期で市場に根を張る企業 |
GS25の手法をそのまま真似るのが危険な理由は明確です。GS25の一点集中は、韓流という強力な文化の追い風があって初めて成立しています。いまの日本ブランドに同じ規模の「ブーム」の追い風はありません。文化の光背に頼れない日系企業は、Circle K型の「価格・利便性・安定」で信頼を積むか、あるいはHallyuに相当する固有の強み(品質保証、日本式サービスなど)を、話題性ではなく日常の価値として翻訳する必要があります。
もう1つの学びは、成長の数字の読み方です。店舗数の伸びと売上シェアは、投資の量でいくらでも作れます。追うべきは「客がその店を選ぶ理由が何か、その理由は自社にも作れるか」です。GS25はこの問いに「韓国文化」と明快に答えられる。あなたの会社は何と答えるか。それがベトナム出店の設計図の最初の1行になります。
GS25の急成長は、韓国文化への一点集中、体験型の店舗、そして赤字を許容する拡大速度の3点で説明できます。同時に、価格の高さと店舗網の薄さから「大衆の日常」はまだCircle Kのものです。日系企業が持ち帰るべきは、GS25のやり方そのものではなく、「自社の文化的な強みは何か」「ニッチ差別化と大衆信頼のどちらで戦うか」という問いの立て方です。
Q. GS25はベトナムに何店舗ありますか。
2024年5月に300店を超え、2025年内500店を目標に拡大中です。2025年3月にハノイへ北部進出し、9ヶ月で50店に達しました。長期では2028年までに2,000店超の計画を掲げています(2026年7月時点)。
Q. GS25のベトナムでの競合はどこですか。
外資系コンビニではCircle K(売上シェア約48%で首位)、Ministop、FamilyMart、7-Elevenです。生鮮寄りのWinMart+やBách Hóa Xanhは店舗数では桁違いに多いものの、用途が異なる別カテゴリとして使い分けられています。
Q. PB商品「Youus」とは何ですか。
GS25のプライベートブランドで、飲料・菓子・アイスなどを2万〜10万ドン程度で展開しています。韓国パッケージの「本場らしさ」が特徴で、韓国文化好きの若年層に選ばれています。
Q. GS25は儲かっているのですか。
2024年時点で売上約1,700億ドンに対し100億ドン超の損失で、進出以来黒字化していません。店舗網を先に築く投資フェーズにあり、成長の数字と収益性は分けて評価する必要があります。
ベトナムのマーケティングは、現場で機能してはじめて成果になります。VWCは、戦略の設計から現場での実行までを一気通貫でご支援しています。ベトナムでの店舗展開やブランドの立ち位置づくりでしたら、本記事の筆者がはじめのご相談をお受けします。VWCに相談する
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