ベトナムでGoogle広告を始めた日系企業から、「管理画面のコンバージョンが少なすぎる。この広告は効いていないのでは」という相談をよく受けます。実は、これがベトナムのGoogle広告で最も高くつく誤解です。ベトナム人の問い合わせは電話とZaloに集中するため、計測を設計しないとコンバージョンの半分以上が数字に表れません。効いている広告を「効いていない」と判断して止めてしまう。この間違いを、筆者は何度も見てきました。
この記事では、ホーチミンで日系企業のGoogle広告を運用している筆者が、配信前に知っておくべき違いを整理します。検索エンジン事情とCốc Cốcの誤解、業界別のCPC相場、ベトナム語キーワードの罠、フォーマットの使い分け、そして最重要の計測と問い合わせ導線です。
※費用・シェアの数値は2026年7月時点です。CPCの実額はVWCが運用する実アカウントの観測値に基づきます。

まず前提です。ベトナムの検索市場はGoogleがほぼ独占しており、Statcounterの検索エンジンシェアでは約94%、国産のCốc Cốcは4〜5%です。
ここでよくある誤解を2つ、正確にしておきます。
1つ目は、検索エンジンのシェアとブラウザのシェアの混同です。ブラウザ市場ではChromeが約82%で、StatcounterだとCốc Cốcは数%に見えます。一方、調査会社の利用率調査ではPCユーザーの2割前後がCốc Cốcブラウザを使っているという結果もあり、測定方法で数字が大きく変わります。重要なのは、Cốc Cốcブラウザの利用者の多くは、その中でGoogle検索を使っているという実態です。ブラウザとしてのCốc Cốcはまだ生きていますが、検索エンジンとしての存在感は小さい。この区別を押さえるだけで、数字の読み違いを避けられます。
2つ目は、もっと実務に直結します。「Google広告を出せばCốc Cốcのユーザーにも自動で届く」という誤解です。答えは明確に、届きません。Google広告には検索パートナーという配信設定がありますが、Cốc Cốcはこのネットワークに含まれておらず、筆者が運用してきた複数のアカウントでも、Cốc Cốc経由の流入を検索パートナー経由で観測したことは一度もありません。Cốc Cốcのユーザーに広告を届けたければ、Cốc Cốc Adsという別のプラットフォームに別予算で出稿する必要があります。

ベトナムのCPC(クリック単価)の公開情報は代理店の宣伝ページばかりで、信頼できる公的ソースがほとんどありません。そこでここでは、VWCが2025年から2026年にかけて運用してきた実アカウントの観測値として、業界別の桁感を示します。
| 業界 | CPCの目安(ドン/クリック) |
| EC・一般消費財 | 約2,000〜10,000 |
| 留学・教育 | 約10,000〜40,000 |
| 医療・美容クリニック | 約15,000〜60,000 |
| 不動産 | 約15,000〜80,000(中心部マンション等の激戦KWは10万超も) |
| 法務(弁護士・相談) | 約30,000〜90,000 |
| 保険・金融・投資 | 約20,000〜100,000超(最高値帯) |
| B2B・産業機械 | 約10,000〜50,000(ニッチ度で大きく変動) |
※VWC運用アカウントの観測値(2026年7月時点)。テト・年末セール・入学シーズン(教育)は競合入札が集中し、CPCが2〜4割上がります。
もう1つ、日系企業が見落としがちなレバーが品質スコアです。CTR、広告と検索意図の関連性、LPの適合で決まるこのスコアが7〜10に乗ると、同じ順位でも実際に支払うCPCが2〜3割強下がるのを、筆者は実務で繰り返し確認しています。新規参入の日系企業ほど「高く入札して順位を取る」方向に行きがちですが、広告文とLPを検索意図に合わせて磨く方が、長期的にはずっと安く付きます。

キーワード設定は、ベトナム語特有の落とし穴が集中する工程です。実際に事故が起きた順に5つ挙げます。
第一に、除外キーワードは声調記号あり・なしを別物として扱います。通常のマッチングでは「cafe」と「café」のような表記ゆれは同一視されますが、除外キーワードでは声調の有無が別の語になります。「mua re(安く買う)」を除外しても「mua rẻ」が残り、安値目当ての流入が止まらない。除外キーワードは必ず「声調あり・なしのペア」で登録してください。
第二に、声調を外すと別の意味になる同綴語です。「thuoc」は「thuốc(薬)」にも「thuộc(属する)」にも読め、筆者が知る製薬系のアカウントでは、無声調の検索語を精査しないまま配信して、初月の予算の15〜20%を無関係な流入に費やしました。検索語レポートでの早期チェックが必須です。
第三に、英語とベトナム語の混在検索です。ベトナム人は「khóa học IELTS」とも「IELTS course」とも「học IELTS online」とも検索します。テック・B2B領域では「phần mềm CRM」より「CRM là gì」のように英語用語を残す検索が主流です。純ベトナム語だけでキーワードを組むと、体感で3〜4割の検索ボリュームを取り逃します。
第四に、略語です。「ck」は銀行文脈では「振込」、生活文脈では「夫」。「km」は販売文脈では「キロメートル」ではなく「値引き」。業界の文脈を確認せずに略語を入れると、ターゲティングが濁ります。
第五に、文章型の長い検索の増加です。「4人家族に合う浄水器はどれを買うべきか」のような質問文検索が、AIチャットに慣れたユーザーを中心に増えています。日本式の「短い複合KW」の発想だけでなく、部分一致とロングテールで拾う設計が要ります。

VWCの実務では、予算配分の出発点はこう置いています。
| フォーマット | 配分の目安 | 役割 |
| 検索広告 | 50〜60% | 顕在ニーズの刈り取り。CVRが最も高い背骨 |
| YouTube広告 | 25〜35% | 認知とブランド検索の喚起(認知が必要な業種のみ) |
| ディスプレイ(GDN) | 10〜15% | リマーケティング専用 |
新規参入の日系企業には、まず検索広告100%で始めて顧客の検索行動を掴み、それからYouTubeとGDNへ広げる順序を勧めています。
YouTubeはベトナムで特に強いチャネルで、効くのは冒頭5秒にフックを置いた15〜30秒のスキップ可能なインストリームです。VWCのF&Bクライアントでは、テト前にYouTube広告を回した後の2〜3週間、Googleでのブランド名検索が目に見えて増えました。「動画広告がブランド検索を増やす」という一般論を、ベトナムの実アカウントで確認した例です。
一方、GDNを新規顧客の獲得(コールドトラフィック)に使うのは勧めません。ベトナムはバナー慣れが進んでいて、実務でのCTR・CVRは低く出ます。GDNはサイト訪問者への追跡配信(リマーケティング)に絞ったときに費用対効果が出ます。
そして全体の前提がモバイルです。VWCのクライアントでは、Google広告経由の流入の85〜95%がモバイルです。日本のデスクトップ向けLPをそのまま持ち込むと、表示が遅く、フォームが長く、ボタンが押しにくい。広告の良し悪し以前に、ここでコンバージョンが漏れます。

冒頭に書いた「最も高くつく誤解」の本体がここです。
ベトナム人はWebフォームより、電話とチャットで問い合わせます。VWCの運用実感では、不動産・自動車・保険・B2Bのような高額商材では、コンバージョンの60〜80%が電話(モバイルのタップ発信)またはZalo・Messengerのチャットで発生し、フォーム送信は20〜40%にすぎません。チャットの受け皿となるZaloは月間約8,000万人が使う国民的アプリです。
つまり、フォーム送信だけをコンバージョン計測していると、成果の半分以上が管理画面に出てきません。VWCでは3段構えで埋めています。
日系企業への助言は一つです。管理画面の「コンバージョン」の数字だけで広告の生死を判断しないでください。ベトナムでは、その数字は設計しない限りほぼ必ず過少です。

計測の話は、そのままLP設計の話につながります。問い合わせの主役が電話とZaloなのですから、LPの一番目立つ場所に置くべきは長い入力フォームではなく、「Gọi ngay(今すぐ電話)」と「Chat Zalo」のボタンです。
日系企業のLPでよく見るのは、日本のBtoBサイトの流儀で作られた、入力欄が8個も10個もある問い合わせフォームです。ベトナムのモバイルユーザーはこれを見た瞬間に離脱します。ファーストビューに電話とZaloの動線、フォームは名前と電話番号程度の最小構成にする。広告費を1ドンも増やさずにコンバージョンが増える、最も割の良い改善です。
ベトナムでGoogle広告を始める前に、この5点を確認してください。
この5つのうち、成果への影響が最も大きいのは4と5です。技術的なキーワード設計より先に、計測と導線をベトナム人の行動に合わせること。それが予算を無駄にしない一番の近道です。
Q. ベトナムのGoogle広告の費用はどれくらいかかりますか。
CPCはECで約2,000〜10,000ドン、不動産で約15,000〜80,000ドン、保険・金融は10万ドンを超えることもあります(VWC運用アカウントの観測値、2026年7月時点)。テトや年末は2〜4割上がるため、繁忙期を含む月予算で試算してください。
Q. Cốc Cốc向けの広告は必要ですか。
Google広告はCốc Cốcの検索結果に配信されないため、Cốc Cốcユーザーを狙うならCốc Cốc Adsへの別出稿が必要です。ただし検索シェアは4〜5%なので、まずGoogle広告で成果を作り、35歳以上や地方向け商材で必要になったら検討する順序で十分です。
Q. 運用は日本の代理店とベトナムの代理店、どちらに委託すべきですか。
判断基準は「ベトナム語の検索語レポートを読めるか」です。除外キーワードの声調ペアや英越混在KWの精査は、ベトナム語がわからないと対応できません。日本語での報告とベトナム語での運用実務、両方を備えた体制かを確認してください。
Q. YouTube広告はベトナムで効きますか。
認知目的なら効きます。冒頭5秒にフックを置いた15〜30秒のスキップ可能広告が基本形で、VWCの実例ではテト前の配信後にブランド名検索の増加を確認しています。ただし刈り取りは検索広告の役割なので、検索を固めてから足す順序を守ってください。
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